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研究施設の現状と将来計画 分子研リポート2013 | 分子科学研究所

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8.研究施設の現状と将来計画

共同利用設備を充実させ,大学等の共同利用研究者の研究支援を行うことが大学共同利用機関の主要な役目のひと つである。1975年の研究所発足当初から装置開発室と機器センターを設置し,1976年に化学試料室,1977年に 極低温センターを設置した。さらに1979年には電子計算機センターに大型計算機を導入し,1983年から極端紫外 光実験施設(U V S OR 施設)で放射光源装置が運転を開始した。これらの施設では単に設備を設置するだけではなく, 共同利用支援業務を滞りなく行うために技術職員を充実させた。また,高度な研究を進めるためには研究開発が不可 欠であり,研究職員も配置した。

流動性の高い分子科学研究所の場合,着任後の研究立ち上げスピードの速さが重要である。また,各研究グループ サイズが小さいことも補う必要がある。このような観点でも施設を充実させることが重要である。それによって,転 出後もこれらの施設の共同利用によって研究のアクティビティを維持することが可能である。研究者が開発した優れ た装置が転出後,共同利用設備として施設の管理となって,さらに広く共同利用されるケースもある。このように, 研究所として見た場合,施設の充実は研究職員が流動していくシステムそのものを支援することになる。従って,施 設の継続的な運営が重要であり,毎年,所全体に定員削減,人件費削減の要請があっても施設の技術職員については 手を付けず技術の向上に努め,絶えず技術レベルの高い人材を確保するようにした。技術職員が研究所外に出かけそ の高い技術力で研究支援するなどの技術交流を可能とした。さらに長期戦略が必要な施設には教授を置くことで,現 在は,施設所属の研究職員であっても流動性を保てる方向になっている。

現在,極端紫外光研究施設(U V S OR 施設),計算科学研究センター(組織的には岡崎共通研究施設のひとつ)が大 型設備を有し,計画的に高度化,更新を行うことで世界的にトップクラスの共同利用を実施している。国内外の超大 型の放射光施設やスーパーコンピュータ拠点との連携を図りつつ,差別化・役割分担を行い,機動性を活かした特徴 ある共同利用が進んでいる。分子制御レーザー開発研究センター(1997年設置),分子スケールナノサイエンスセン ター(2002年設置),機器センター(2007年に旧機器センター,旧極低温センター,旧化学試料室の機能を再構築 して設置)は本来の共同利用支援業務を行う一方で,それぞれ最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点事 業,ナノテクノロジーネットワーク事業,大学連携研究設備ネットワーク事業をそれぞれ受託し,特定分野の重点的 な強化,大学等の研究を支えるシステム作りを行ってきた。また,装置開発室は高度な特殊装置・コンポーネント開 発にその高い技術力を活かすべく,研究所外からの依頼に対応することで共同利用施設としての役目を果たしている。 2013年4月に,分子スケールナノサイエンスセンターを改組し,多重の階層を越えて機能する分子システムを構築 することを目的とした新たな研究センターとして「協奏分子システム研究センター」を発足させた。

(大峯 巖)

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8-1 極端紫外光研究施設(UV S O R )

U V S O R 施設は2003年の光源加速器高度化(低エミッタンス化,直線部増強)とそれに引き続くアンジュレータ の増設,トップアップ運転(一定ビーム強度運転)導入により,1 G eV 以下の低エネルギーシンクロトロン光源とし ては世界的にも最高水準の高性能光源となった。さらに,光源加速器で唯一建設来手つかずの装置である偏向電磁石 をビーム収束作用を持つ複合機能型に交換することで,電子ビームエミッタンスを現在の 27 nm-rad から 15 nm-rad 程 度まで下げる改造を2012年春に行った。この改造に合わせて,アンジュレータ1台が増設され,周長 50 m の小型光 源に合計6台のアンジュレータが稼働することとなった。現在,運転の安定性の向上に取り組んでいる。

ビームラインはスクラップアンドビルトにより数を絞り込み,競争力のあるビームラインを中心に重点的に整備を 進めており,現在は13本が稼働しており,2本が立上調整中である。このうち2本の偏光可変型アンジュレータビー ムラインは世界的にも最高水準の性能を誇り,固体の光電子分光による研究に威力を発揮している。また,3本の真 空封止型アンジュレータビームラインは気体や液体の特徴ある分光研究に利用されている。他,国内では唯一の軟X 線顕微分光ビームラインとして利用が開始された。

新しい光源技術の開発として,レーザーと電子ビームを用いた光発生とその利用法に関する研究を,文部科学省の 受託研究として進め,装置の整備が完了した。現在,コヒーレントなテラヘルツ光・真空紫外光の試験利用開始に向 けて更に研究を進めている。

光源加速器の高度化は2012年度の改造で一段落し,その後はより高い光源安定性の実現へ向けた改良や新しい技 術の導入へ重心を移す。また,老朽化の進んでいる一部のビームラインについては,整理統合の可能性も排除せず更新・ 高度化の検討を進め,段階的に実施する。現在,固体光電子分光ビームラインのうち一本について,アンジュレータ や分光器,末端の実験装置も含む高度化が進められており,2014年度中の利用開始を目指している。

上記のように既存設備の性能を世界最高水準に維持し高度な利用研究を推進しつつ,次期計画の具体化に向けた検 討を進める。様々な可能性が考えられるが,需要,予算,敷地,加速器技術の進展,他施設の動向なども考慮しつつ, 計画を練り,最適なものを選択する必要がある。高輝度・高繰り返しライナックによる軟X線領域でのシングルパス 型自由電子レーザーは,リング型光源と相補的な光源となるはずであり,既存加速器を運用しつつ整備を進めること ができる可能性があること,現在進めているレーザーと電子ビームを用いた光発生技術を活かせる可能性があること, などの利点もあり,その実現可能性について技術的検討を進めている。

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8-2 協奏分子システム研究センター

8-2-1 経緯と現状,将来構想

協奏分子システム研究センターは2013年4月に発足し,分子科学研究所がこれまでに培ってきたナノサイエンス に関する研究資産を基盤に,新しい分子科学の開拓に取り組んでいる。センターのミッションは,「分子それぞれの 性質が階層構造を持つ分子システムの卓越した機能発現にどう結びつくのか」という分野横断的な重要課題を解決す ることである。そのためには,システムの構成要素である分子自身について理解を深めるのに加え,それぞれの分子 がどのようなネットワークや制御を介して混然一体となり,複雑かつ高度な機能の発現へと繋がっていくのかを理解 しなければならない。

このような目的の達成に向けて,微細なナノスケールの分子科学からタンパク質や細胞のようなマクロで不均一な 分子科学まで研究者を幅広く募り,「階層分子システム解析研究部門」,「機能分子システム創成研究部門」,「生体分 子システム研究部門」の3部門体制で研究活動を展開している。発足時の体制は,専任PIが7名(秋山教授,山本 教授,村橋教授,櫻井准教授,鈴木准教授,石﨑特任准教授,鹿野特任准教授),併任PIが6名(斉藤教授,青野教授, 加藤教授,古谷准教授,正岡准教授,藤井准教授)の計13名であり,10月1日に小林特任准教授を迎えて現在14 名(専任PI8名,併任PI7名)となっている。未踏の領域に切り込む若手研究者から,分野をリードするシニア研 究者まで,異なる学問領域の研究者が集う,幅広くも層の厚いメンバー構成となっている。

2013年度の主な活動状況として,階層分子システム解析研究部門では,分子時計システムを題材に実験(秋山グ ループ)と理論(斉藤グループ)のあいだで共同研究が進行している。また,同部門に属する3名の若手特任准教授 は研究活動を活発に展開しており,その成果の一部は論文や受賞という形で評価されている。機能分子システム創成 研究部門からは,有機分子による超伝導トランジスタの実現(山本グループ)など興味深い研究成果が複数発表され ている。設立よりいまだ日も浅く,センターとしての研究成果が目に見える形となって表れるのはまさにこれからで ある。

専任PI(若手独立フェローを含む)はセンターが掲げる目的に向かって,これまでの研究とは違う新しい一歩を 踏みだすことが求められる。既に一部のグループ間で共同研究が進行中であるが,より多くのセンター構成員で共有 できる新しい研究プロジェクトを練り上げていく必要がある。専門から少し離れた分野でのプロジェクト立案には人 的交流が何よりも重要であるため,明大寺地区の研究グループの居室を1フロアに集中させ,一部をオープンスペー スとして運用するべく準備を進めている(2014年度5〜6月あたりを計画)。

その他,ウェブサイトの立ち上げ,2回のワークショップ(共催),8回の C I M oS セミナー等を企画し,これらを 通じてセンター活動や成果を国内外に発信している。

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8-3 分子制御レーザー開発研究センター

8-3-1 経緯と現状,将来構想

分子制御レーザー開発研究センター(以後「レーザーセンター」)は,旧機器センターからの改組拡充によって平 成9年4月に設立された。以降,平成18年度までの10年間,分子位相制御レーザー開発研究部,放射光同期レーザー 開発研究部,特殊波長レーザー開発研究部の3研究部において所内課題研究及び調査研究を行う他,多数の共同利用 機器,小型貸出機器を維持管理し,利用者の便に供してきた。各研究部には助教授及び助手が各1名配置され,また セ ン タ ー 共 通 の 技 術 支 援 は 技 術 課 の 3 名 の 技 術 職 員 が 行 っ て き た。 放 射 光 同 期 レ ー ザ ー 開 発 研 究 部 は, 分 子 研 U V S O R との同期実験に向けた基礎的レーザー光学技術の開発の他,大出力紫外パルスレーザーやコヒーレントテラ ヘルツ光源の開発などの成果を挙げた。特殊波長レーザー開発研究部は,分子科学の新たな展開を可能とする波長の 可変な特殊波長(特に赤外域)レーザーの開発の他,マイクロチップレーザー光源等の開発を行い,産業界からも注 目される成果を挙げてきた。分子位相制御レーザー開発研究部は,分子制御のための時間的特性を制御したレーザー の開発と反応制御実験を目的として設置され活動を行った。

平成18年度には分子研の研究系・施設の組織改編へ向けた議論が行われたが,この中で,レーザーセンターのあり方 に強く関連する事柄は以下の2点であった。第一に,レーザーや放射光を重要な研究手段とし,光と物質との相互作用 に基づく分子科学を展開する研究領域として新たに光分子科学研究領域が設けられることになった。従来はこの研究領 域の研究が,主に分子構造,電子構造,極端紫外光科学の各研究系と,極端紫外光研究施設とレーザーセンターとに別々 に所属する研究グループによって行われてきた。しかし,この組織形態は,多くの共通した概念や方法論を基本とする 研究グループを縦割りに分断し,研究者間の情報の共有や研究活動における日常の議論を阻害する要因となっていた。 一方,レーザー光源を用いた研究グループは,17年度から始まった「エクストリーム・フォトニクス」のプログラムに より,既に当時,組織横断的なつながりを持つ機会が増えていた。そこで,この新研究領域を創設することにより,放射 光関連の研究グループとの間の壁も取り払い,本研究所における光分子科学研究をさらに活性化することを目指したの である。第二の点は機器センターの再設置であった。本研究所には以前,同センターが設置されていたが,その後,極 低温センターと化学試料室と共に廃止され,レーザーセンターと分子物質開発研究センターが設置され,後者は更に分 子スケールナノサイエンスセンターへと改組された。しかし,共通機器を一括して管理運営し,所内外の研究者の共同 利用を促進する必要が改めて認識され機器センターが再度設置されることとなった。これに伴って,レーザーセンターが 管理運営していた共通機器の大部分が機器センターに移管されることになった。

この措置により,レーザーセンターは従来の共同利用に関する業務を大幅に圧縮することができ,センターとして の活動の重点を開発研究に移すことが可能となった。そこで改組後のレーザーセンターでは,光分子科学研究領域の 研究グループと密接な連携をとりながら,分子研におけるレーザー関連光分子科学の開発研究の中心として機能する ことを重要なミッションと考えることとなった。ただし,光分子科学研究領域の研究グループとレーザーセンターの 役割の違いを認識しておく必要がある。光分子科学研究領域の各研究グループではそれぞれの興味のもとで光分子科 学の研究分野を開拓し,先端的研究を展開するのに対して,レーザーセンターのミッションは,光分子科学の先端的 研究とその将来的な発展に必要な,光源を含む装置,方法論の開発,及びそれらの技術の蓄積に重点がおかれるべき である。光分子科学研究領域とレーザーセンターのインタープレイにより生まれた技術や方法論を蓄積するだけでは なく,開発された手法,装置や部品を所内外に提供・共同利用に供する点で,研究領域における各グループの研究活 動との差が存在する。

ただし,技術や方法論の開発段階においては,各グループの研究活動とレーザーセンターの活動を明瞭に区別する

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ことは,しばしば困難である。従って,レーザーセンターと研究グループの人的な相互乗り入れは不可欠であり,平 成19年度の組織再編に際しては,光分子科学研究領域及び UV S OR に属する数名の教授・准教授がレーザーセンター に併任する形で運営することとなった。このような組織で,光分子科学の新分野を切り拓くための装置,方法論の開 発と技術蓄積を行う開発研究施設という位置づけで,レーザーセンターを運営している。開発された装置や方法論の 技術的蓄積も既に始まっており,今後,所内外の分子科学者との先端的な共同研究を遂行するためのリソースとして 提供することが望まれる。

これまでの所内,特にレーザーセンター内と光分子科学研究領域内における議論,及び所外委員を含むセンター運 営委員会等の席において,レーザーセンターの機能・ミッションに関しても議論を重ねてきた。そこでの意見として, 高いポテンシャルを持つ部門間の有機的な繋がりを考え,高い視点から見た共有点や一致点(例えば光による時間・ 空間を分解する研究手法)を探ること,レーザーを使って新しい実験的方法論を作って行くことが必要ではないか, という議論があった。またそれに向けて,レーザーセンターを光分子科学に関わる研究者が幅広く議論を行う場とし て有効活用することが必要との意見もあった。前者はまさに数年前の組織再編時に掲げた理想に沿うものであり,そ れに向けてレーザーセンターを議論の場として有効活用して行く必要があると考えている。エクストリーム・フォト ニクスの活動としての所内セミナーの開催時に,そのような機会を持つことを,平成23年度より試行している。

平成25年度現在,レーザーセンターは以下の3つの研究部門より成り立っている。

(1) 先端レーザー開発研究部門;平等拓範准教授(専任),藤 貴夫准教授(専任),加藤政博教授(UV SOR より併任) (2) 超高速コヒーレント制御研究部門;大森賢治教授(光分子科学研究領域より併任)

(3) 極限精密光計測研究部門;岡本裕巳教授,大島康裕教授(以上,光分子科学研究領域より併任)

それぞれの部門の任務は,(1) テラヘルツから軟X線にいたる先端光源の開発;(2) 主に高出力超短パルスレーザーを 用いた量子制御法の開発;(3) 高空間分解および高エネルギー分解分光法の開発などである。レーザー光源の開発か ら新たなスペクトロスコピー,マイクロスコピー,制御法に至る統合的な研究手法を開発することを目的としている。 これらの開発研究により,他に類を見ない装置や方法論を創出して分子科学研究の重要な柱として寄与し,分子科学 研究所とコミュニティの新たな共同利用の機会を開拓することが求められる。また,技術職員が積極的にこれらの研 究開発に参加することによって,新たに開発された装置や方法論をセンターに蓄積し,継承していくための原動力と して活躍する事が,センターのミッションに照らして重要な点である。センターが保有する光計測に関する汎用の小 型装置と技術については,一部を所内で共用することを試行している。その意味で,現在1名しか配置されていない 技術職員ポストが増員されることが強く望まれる。

一方,先端レーザー開発研究部門への加藤教授(U V S O R 所属)の参加は,レーザーセンターと U V S O R との連携 による新しい研究分野の創出を目指すものである。平成22年度からは実際に,レーザーセンターと U V S O R の現場 の研究者・技術職員が,レーザーと相対論的電子ビームを組み合わせたコヒーレント放射光源の開発に関して議論を 重ね,実験に取りかかっている。今後,先鋭化するレーザー光源を用いた観測制御技術と放射光を用いた研究との連 携がさらに進むことが期待され,それにより光分子科学の新たな領域を創出する正のフィードバックも加速されるで あろう。この延長線上には,将来的に,放射光とレーザーの技術を総合した大規模な新規の研究施設を建設する構想 も持っておく価値はあろう。国内外の類似の施設建設の動きを考慮すると,分子研において取り組むとすれば,レー ザーに線形加速器を組み合わせたコヒーレント光源の建設が考えられる。想定される利用実験に関する十分な議論も 尽くす必要があろう。先端的なレーザー光源をセンターで保有し,その利用研究を複数のグループが行うというセン ターの形態も状況によっては考えられる。しかし現在の分子科学における先端的なレーザー実験は,多くの場合,そ

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れぞれの研究目的に適した小型レーザーが用いられており,一つの大型のレーザーを共同で利用するという利用形態 が一般的ではない。このような利用形態を取るとすれば,どのような仕様とし,どのような利用実験が可能であるかを, コミュニティを巻き込んで十分議論する必要があり,このような方向を想定すべきかどうかは今後の検討課題である。 これらの構想を含め将来的には,レーザーセンターと UV S OR を包括した研究センターの設立も視野に入れた検討を, 行う必要があると考えている。

8-3-2 共同研究の状況

平成25年度は,下記のような共同研究とその成果があった。

1) 「高出力レーザー新材料の基礎研究」

高輝度光発生を目的として,物質・材料の微細な秩序領域であるマイクロドメインを機能的に構造制御する手法を 探索している。これまでにコンポン研・豊田中研との共同研究において,分子研で開発の異方性レーザーセラミック スにおいてマイクロドメインの方位に統計的な揺らぎがあることを見出した。そこで希土類 4f 電子のスピン・軌道 角運動量を考慮した磁場による系の異方性制御に関し,スピンの歳差運動による揺らぎをアンサンブル平均し,熱雑 音を考慮してギブスの自由エネルギーの視点からの新たなモデル構築を行った(関連論文2件)。今後,モデルの実 験的検証を行う予定である。

2) 「チャープパルス上方変換による単一ショット中赤外スペクトル測定」

フィラメンテーションを使った波長変換によって,7 f s 程度の単一サイクル中赤外光パルスが発生された。そのパ ルスを使った高速な赤外分光装置の開発を香川大学の中西教授と協力して行った。結果として,遠赤外から近赤外ま での超広帯域のスペクトル(200–5000 cm

–1

)を 1 ms で計測することができた。研究成果の一部は国際会議で発表し, 論文として出版された。

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8-4 機器センター

機器センターは,汎用機器の維持・管理・運用と,所内外の施設利用者への技術支援を主な業務としている。この他, 研究所内外の共同利用者と協力して,機器センターの機器を利用した特色ある測定装置の開発とその共同利用も行っ ている。機器センターでは,化学分析機器,構造解析機器,物性測定機器,分光計測機器,および液体窒素・ヘリウ ム等の寒剤供給装置等の多様な機器の維持・管理を行っている。また,機器センター所有の多くの機器を大学連携研 究設備ネットワークに公開しつつ,この事業の実務を担当している。機器センターには,センター長(併任)のほか に7名の専任技術職員と2名の事務支援員が配置されている。

研究所全体として大規模装置を効率的に運用する必要性の高まりを受けて,機器センターにおいて,比較的汎用性 の高い装置群を集中的かつ経常的に管理することとなった。その一環として,2011年度末に終了した「ナノテクノ ロジーネットワーク事業」で運営されてきた 920 MHz NMR および高分解能電子顕微鏡,さらに,X線光電子分光器, 集束イオンビーム加工装置,走査型電子顕微鏡の計5装置が,機器センターに移管された。2012年7月よりは,「ナ ノテクノロジーネットワーク事業」の発展である「ナノテクノロジープラットフォーム(ナノプラットフォーム)事業」 が開始された。当センターは,「ナノプラットフォーム」と緊密に連携を取り,様々な汎用設備の維持・管理と所外 研究者への供用サポートを継続している。機器センター所有の施設の中,電子スピン共鳴(E S R )装置(B ruker E MX Plus, E 500)ならびに S QUID 型磁化測定装置は2013年度から「ナノプラットフォーム」にて運用する体制となった。 また,理化学研究所より2台の N M R 装置(B ruk er A V A N C E 80,A V A N C E 600)が移管され,2013年秋より本格的 な供用が開始されている。電子スピン共鳴装置に関しても各コンポーネントのアップグレードや様々なオプションの 導入によって,研究環境の整備が行われた。

以上の状況に対応して,研究所外のコミュニティの方々から広くご意見を頂く必要性がますます増加するものと考 え,機器センターの運営委員会が現在までは所内委員のみで構成されていたものを,所外委員も含めた構成に変更し た。当会議では,施設利用の審査を行うほか,施設利用の在り方やセンターの将来計画について,所内外の意見を集 約しつつ方向性を定める。

機器センターの今後であるが,国家全体の厳しい財務状況を考慮すると,汎用機器の配置や利用を明確な戦略のも とに進めることが不可欠となるのは言をまたない。実際,現在の所有機器の多くが10年以上前に導入されたもので 老朽化が進み,かなり高額の修理を頻繁に実施せざるを得ない状況になっている。全てを同時に更新することは予算 的な制約からほぼ不可能であり,緊急性・使用頻度を考慮して順次更新を進めるプランを策定して,分子研全体の設 備マスタープランへ組み込む必要がある。この点で,どのような機器ラインアップを維持するか再検討すべきであり, 機器の利用形態を考慮すると,次の3つのタイプに階層化することが有用と思われる。

1) 比較的多数のグループ(特に研究所内)が研究を遂行していく上で不可欠な共通基盤的機器。これらの維持は,特 に人事流動の活発な分子研において,各グループが類似の装置をそれぞれ新たに用意する必要がない環境作りの面 で,最重要である。所内利用者には利便性を図りつつ相応の維持費負担をお願いする必要がある。また,オペレーター として,技術職員ばかりでなく技術支援員等で対応することも検討する。一方,使用頻度や維持経費の点で負担が 大きいと判断されたものは見直しの対象とし,所内特定グループや他機関へも含めた移設などにより有効に利用し てもらうことも検討すべきである。

2) 当機器センターとしての特色ある測定機器。汎用機器をベースとしつつ改良を加えることによってオリジナル性の 高いシステムを開発し,それを共同利用に供する取り組みを強化すべきである。その際,技術職員が積極的に関与 して技術力を高めることが重要である。所外の研究者の要請・提案を取り込みつつ連携して進めるとともに,所内

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研究者の積極的な関与も求める。当センター内のみならず,例えば,UV S OR や分子制御レーザー開発研究センター 等と共同して取り組むことも効果的と考えられる。所内技術職員の連携協力が技術を支えるのに不可欠である。コ ミュニティ全体から提案を求める体制づくりも必要となろう。また,各種プロジェクトに適当な装置の時間貸しを することによって維持費の一部を捻出するなどの工夫も必要であろう。

3) 国際的な水準での先端的機器。分子科学の発展・深化を強力に推進する研究拠点としての分子研の役割を体現する 施設として,U V S O R や計算科学研究センターと同様に,機器センターも機能する必要がある。高磁場 N M R 装置 や E S R 装置は,国際的な競争力を有する先端的機器群であり,研究所全体として明確に位置付けを行い,利用・運 営体制を整備することによって,このミッションに対応すべきである。国外からの利用にも対応するため,技術職 員には国際性が求められる。2) と同様に,所外コミュニティからの要請・提案と,所内研究者の積極的関与が不可 欠である。特に,新規ユーザーの開拓は,分子科学の新領域形成へと繋がると期待されるものであり,これまで分 子研との繋がりがあまり深くはなかった研究者層・学協会との積極的な連携を模索することにも取り組む。先端的 機器は不断の性能更新が宿命であるが,全ての面でトップたることは不可能であるので,意識して差別化を行い, 分子研ならではの機器集合体を構成することに留意する。

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8-5 装置開発室

装置開発室は,分子科学分野の研究者と協力し最先端の研究に必要となる装置や技術を開発すること,日常の実験 研究において必要となる装置や部品類の設計・製作に迅速に対応する,という二つの役割を担っている。製作依頼件 数は年間 300 件近くに及ぶ。新しい装置の開発では技術職員が研究者と密接に連携し,また,日常の実験研究で必要 となる工作依頼などについては,機械加工技能を持つ技術支援員が中心となり,対応している。

分子研外部からの製作・開発依頼を受け入れる「施設利用」を2005年度より分子研の共同利用の一環として開始し, 年間 10 件程度を受け入れている。これを本格的に運用するにあたって,受入れ方式を見直し,分子科学の発展への 寄与,装置開発室の技術力向上への寄与,装置開発室の保有する技術の特徴を活かせること,の3点を考慮し,受入 れに関する審査を行っている。

装置開発室は大きく機械工作を担当するメカトロニクスセクションと電子回路工作を担当するエレクトロニクスセ クションに分かれている。メカトロニクスセクションでは従来の機械加工技術の超精密化に向けた取り組みに加え, 近年では,フォトリソグラフィなど非機械加工による超微細加工技術の習得に取り組んでいる。エレクトロニクスセ クションでは,高速化や多機能化が進む電子回路の需要にこたえるために,プログラマブル論理回路素子を用いたカ スタム IC の開発,東京大学大規模集積システム設計教育センター(V D E C )を利用したアナログ集積回路の開発技術 の導入に取り組んでいる。

装置開発室の業務の基盤である依頼業務,すなわち,分子研内外からの装置の製作や開発の依頼に応える業務に加 えて,装置開発室職員が技術力向上を目指して自主的に技術開発を行うような取り組みを「将来技術開発プロジェク ト」と位置付け,研究の現場における需要を意識しつつ,装置開発室で保有する技術をさらに伸ばす仕組みとして展 開していきたいと考えている。

装置開発室の設備については,創設から30年が経過し,老朽化,性能不足,精度低下などが進み,設備の更新は 急務となっている。2013年度には,ナノテクノロジープラットフォーム事業の一環として,マイクロストラクチャー 製作・評価のための先進設備を導入することができた。今後も,装置開発室の将来計画・将来像の検討を進めながら, その方向性を強く意識しつつ,日常の実験研究を支えるための基盤的設備,先端技術習得のための先進設備,双方の 更新・導入を進める。また,他機関の保有する設備の利用も積極的に検討する。これまでの利用経験から,利用申請 などの手続きに時間がかかるなどの問題も明らかになってきており,効果的な利用・活用の方法を調査・検討する。

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8-6 計算科学研究センター

計算科学研究センターは,2000年度の電子計算機センターから計算科学研究センターへの組織改組にともない, 従来の共同利用に加えて,理論,方法論の開発等の研究,理論計算科学研究の場の提供,ネットワーク業務の支援, 人材育成等の新たな業務に取り組んでいる。2013年度においても,次世代スーパーコンピュータプロジェクト支援, ネットワーク管理室支援等をはじめとした様々な活動を展開している。上記プロジェクトについてはそれぞれの項に 詳しく,ここでは共同利用に関する活動を中心に,特に設備の運用等について記す。

2014年3月現在の共同利用サービスを行っている計算機システムの概要を示す。本システムは,「超高速分子シ ミュレータ」と「高性能分子シミュレータ」から構成されている。前者は2012年2月に更新され,後者は2013年 3月に更新された。両シミュレータは,いずれも量子化学,分子シミュレーション,固体電子論などの共同利用の多 様な計算要求に応えうるための汎用性があるばかりでなく,ユーザーサイドの P C クラスタでは不可能な大規模計算 を実行できる性能を有する。

まず,超高速分子シミュレータは富士通社製の PR IM E R G Y R X 300S 7 と S G I 社製の U V 1000 から構成される共有メ モリ型スカラ計算機で,両サーバは同一体系の C PU(Intel X eon)および OS (L i nux2.6)をもとに,バイナリ互換性 を保って一体的に運用される。これらに加え,京コンピュータと同じアーキテクチャの富士通製 PR IM E H PC F X 10 が あり,システム全体として総演算性能 188.7 T fl ops で総メモリ容量 55 T B y te 超である。PR IM E R G Y R X 300S 7 は,16 C PU コア /128 GB 構成のノード 342 台からなる PC クラスタである。インターコネクトは,InfiniB and QD R を採用し, 全台数を 40 GB /s で,一部は2系統の 80 GB /s で演算ノード間を相互接続しており,大規模な分子動力学計算などノー ドをまたがる並列ジョブを高速で実行することができる。特徴としては,v S M P が導入してあることで,複数ノード を仮想的に 1 ノードの巨大共有メモリシステムとして運用でき,これをジョブ毎に制御が可能である。また 32 ノー ドには,NV ID IA社製の G PG PU T eslaM2090 を搭載している。U V 2000 は 1024 C PU コア /8 T B を有する NU MA型の 共有メモリシステムであり,ジョブ作業領域用に実効容量 400 T B および総理論読み出し性能 12 G B /s を有する高速 磁気ディスク装置が装備され,大規模で高精度な量子化学計算を可能とする。この2サーバで 1000 T B の容量の外部 磁気ディスクを共有し,NF S より高速なパラレル NF S が使用できる。PR IME HPC F X 10 は,16C PU コア /32GB の 96 ノー ドが富士通独自の T ofu インターコネクトで連結されたシステムである。京コンピュータと互換性があり,京コンピュー タのプログラム開発やデータ解析等に活用されている。

一方,高性能分子シミュレータは,演算サーバ,ファイルサーバ,フロントエンドサーバ,運用管理クラスタおよ びネットワーク装置から構成される。演算サーバは,富士通製の PR IME R GY C X 250S 1 で,16 C PU コア /64 GB yte 構 成のノード 368 台からなる共有メモリ型スカラ計算機の PC クラスタである。理論総演算性能は 136.6 T flops,総メモ リ容量は 23 T B yte である。インターコネクトは InfiniB and F D R を採用し,全台数を 56 GB /s で相互接続しており,大 規模な分子動力学計算などノードをまたがる並列ジョブを高速で実行することができる。ファイルサーバは,1800 T B yte のディスクを装備しており,演算サーバのインターコネクトに直結している。本ディスクは,演算サーバのワー クディレクトリとしてだけでなく,共同利用システム全体のホームディレクトリやバックアップ領域として運用して いる。本年度はファイルサーバのメモリを 32 G B から 128 G B に増強することでファイルアクセス速度の大幅な改善 に成功した。本演算サーバは,2014年9月に次世代 C P U を有する P C クラスタに入れ換えることになっており,そ の時点では 300 T f l ops 以上に増強される。なお両システムの P C クラスタは一体的に運用が可能であり,この場合総 演算性能は 263.5 T flops にもおよぶ。本構成で linpack による C PU 性能測定を行った結果 237.9 T flops を記録すること ができ,2013年6月版 T OP500 リストに世界で 129 位の計算機として掲載された。

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ハードウェアに加え,利用者が分子科学の計算をすぐに始められるようにソフトウェアについても整備を行ってい る。量子化学分野においては,G aussi an 09,G amess,M ol pro,M ol cas,T urbomol e,分子動力学分野では,A mber, NA MD ,Gromacs がインストールされている。これらを使った計算は全体の約半数を占めている。さらに,量子化学デー タベース研究会の活動を支援し,同会から提供された量子化学文献データベースをホームページから検索できるよう にしている。これまでに合計 125,646 件のデータが収録され,世界 84 カ国から利用されている。

共同利用に関しては,2013年度は 200 研究グループにより,総数 737 名にもおよぶ利用者がこれらのシステムを 日常的に利用している。近年,共同利用における利用者数が増加傾向にあり,このことは計算科学研究センターが分 子科学分野や物性科学分野において極めて重要な役割を担っており,特色のある計算機資源とソフトウエアを提供し ていることを示している。

計算科学研究センターは,国家基幹技術の一つとして位置づけられている次世代スーパーコンピュータプロジェク トにおいて,とくにナノサイエンスに関わるアプリケーション開発「ナノ統合シミュレーションソフトウェアの研究 開発」において重要な役割の一端を担っている。また,昨年度より,革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・ インフラ(H P C I)戦略プログラムが開始された。この中で,H P C I 戦略分野2「新物質・エネルギー創成」計算物質 科学イニシアティブ(C MS I: C omputational Materials S cience Initiative)が物性科学分野,分子科学分野,材料科学分野 により構成され,C MS I の戦略機関の一つとして分子科学研究所が参加し戦略プログラムを推進している。HPC I 事業 の中で,計算科学研究センターは H P C I の資源提供機関の一つとして H P C I 戦略プログラムに参加し,2011年度よ りコンピュータ資源の一部(20% 未満)を提供・協力している。さらに,ハード・ソフトでの協力以外にも,分野振 興および人材育成に関して,スーパーコンピュータワークショップ「計算化学の最新の成果と展開」と2つのウィン タースクール「第3回量子化学ウインタースクール〜基礎理論と分子物性の理論〜」と「第7回分子シミュレーショ ンスクール〜基礎から応用まで〜」を開催した。

平成25年度 システム構成 超高速分子シミュレータシステム

クラスタ演算サーバ

型番:富士通 PR IME R GY R X 300S 7 OS:L inux

C PUC ore 数:5472(16C PUC ore× 342 ノード)

総理論性能:126.9 T flops(371.2 Gflops× 342 ノード)+21.2 T flops(T eslaM2090 x32) 総メモリ容量:43.7 T B (128 GB × 342 ノード)

高速 I/O 演算サーバ 型番:S GI UV 2000 OS:L inux C PUC ore 数:1024

総理論性能:21.2 T flops(20.8 Gflops/C PUC ore) 総メモリ容量:8.0 T B

ディスク容量:400 T B (/work)

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「京」用開発サーバ

型番:富士通 PR IME HPC F X 10 OS:L inux

C PUC ore 数:1536(16C PUC ore× 96 ノード) 総理論性能:20.2 T flops(13.2 Gflops/C PUC ore) 総メモリ容量:3.0 T B (32 GB × 96 ノード) ディスク容量:48 T B (/k/home)

外部磁気ディスク装置

型番:PA NA S A S PA S 12,PA S 11 総ディスク容量:1000 T B 高速ネットワーク装置

型番:F orce10 Z 9000

高性能分子シミュレータシステム 演算サーバ

型番:富士通 PR IME R GY C X 250S 1 OS:L inux

C PUC ore 数:5888(16C PUC ore× 368 ノード) 総理論性能:136.6 T flops(371.2 Gflops× 368 ノード) 総メモリ容量:23.5 T B (64 GB × 368 ノード) ファイルサーバ

型番:富士通 PR IME R GY R X 300S 7(8 ノード) OS:L inux

総メモリ容量:320 GB (64 GB × 2 ノード+ 32 GB ×6 ノード)

ディスク容量:1800 T B (/home(300 T B ),/save(600 T B ),/week(300 T B ),バックアップ領域(600 T B )) フロントエンドサーバ

型番:富士通 PR IME R GY R X 300S 7(4 ノード) OS:L inux

総メモリ容量:256 GB (64 GB × 4 ノード) 運用管理クラスタ

型番:富士通 PR IME R GY R X 200S 7(16 ノード) OS:L inux

総メモリ容量:512 GB (32 GB × 16 ノード) 高速ネットワーク装置

型番:F orce10 S 4810

(13)

8-7 岡崎統合バイオサイエンスセンター

岡崎統合バイオサイエンスセンターは2000年に岡崎3機関の共通研究施設として設立されて以来,新たなバイオ サイエンス分野の開拓という趣旨のもと,質の高い研究を展開してきた。一方,この10年余りの間に,各種生物に おける全ゲノム配列の決定などの網羅的研究手法が大きく発展し,生物学の新たな発展の可能性が期待されている。 すなわち,生命現象に関わる素子としての分子や細胞の同定を主としたこれまでの還元論的な方法論に加え,同定さ れた分子や細胞群に関する情報を統合することにより,生命現象の本質の理解に新たに迫ることへの期待である。こ のことは同時に,生命という複雑な階層構造を持つ対象を各階層に分断し,それぞれを詳細に調べるという戦略に沿っ て進んできたこれまでの研究に対して,階層を超えたさまざまな視点からの統合的なアプローチによる研究方法の確 立と展開が求められていることを意味する。

このような状況は,分子科学から基礎生物学,生理学までをカバーする幅広い分野の研究者が結集する岡崎統合バ イオサイエンスセンタ―の存在意義をより高めるものであると同時に,このような学問的要請に本センタ―が答える ためには,生命現象を理解する上で本質的に重要ないくつかの問題について焦点を当て,それらに統合的な研究方法 を組み入れるとともに,階層を超えた研究協力体制を確立することが望まれる。そこで,2013年度において,これ までの研究領域を発展的に改組し,新たに「バイオセンシング研究領域」「生命時空間設計研究領域」「生命動秩序形 成研究領域」を設立した。各研究領域では,主に下記のような研究を実施する。

「バイオセンシング研究領域」では,分子から個体までのセンシング機構を駆使して生存している生物の生命シス テムのダイナミズムの解明に迫るために,環境情報の感知に関わるバイオセンシング機構研究を推進する。分子,細 胞や個体が環境情報を感知する機構は様々であり,異なる細胞種や生物種におけるバイオセンシング機構の普遍性と 相違性を明らかにするとともにセンスされた環境情報の統合機構も明らかにする。そのために,バイオセンサーの構 造解析やモデリング解析,進化解析も含めた多層的なアプローチを実施する。

「生命時空間設計研究領域」では,生命現象の諸階層における時間と空間の規定と制御に関わる仕組みを統合的に 理解することを目指す。短時間で起きる分子レベルの反応から生物の進化までの多様な時間スケールの中で起きる生 命現象や,分子集合体から組織・個体に至る多様な空間スケールでの大きさや空間配置の規定や制御に関わる仕組み を研究する。そのために,分子遺伝学,オミックスによる網羅的解析,光学・電子顕微鏡技術を活用したイメージング, 画像解析を含む定量的計測,などによる研究を展開し,さらに数理・情報生物学を駆使した統合的アプローチを実施 する。

「生命動秩序形成研究領域」では,生命体を構成する多数の素子(個体を構成する細胞,あるいは細胞を構成する 分子)がダイナミックな離合集散を通じて柔軟かつロバストな高次秩序系を創発する仕組みを理解することを目指す。 そのために,生命システムの動秩序形成におけるミクロ−マクロ相関の探査を可能とする物理化学的計測手法の開発 を推進するとともに,得られるデータをもとに多階層的な生命情報学・定量生物学・数理生物研究を展開し,さらに 超分子科学・合成生物学を統合したアプローチを実施する。

分子科学研究所を兼務している教員のうち,青野重利教授はバイオセンシング研究領域に,加藤晃一教授,藤井浩 准教授は生命動秩序形成研究領域に所属している。2012年度末に定年退職した桑島邦博教授の後任は,現在選考中

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